research研究
2025.11.27
インタビュー:緑の光のメカニズムを解き明かす
今回の研究日誌では、「505nmの緑色LEDによるメラニン抑制メカニズム」の解明に取り組んだ、開発担当者にお話を伺いました。
まず、研究テーマについて教えてください。
「私のミッションは、505nmの緑色LEDによるメラニン抑制のメカニズムの解明でした。505nmの光がメラニンを抑制することはすでに分かっていたのですが、なぜ抑制できるのか、その仕組みは明らかになっていませんでした。
今回の細胞試験の目的は、その根本的な仕組みを明らかにすることです。単に“メラニンが減った”という結果を見るだけではなく、光が細胞や遺伝子のレベルでどのように作用し、メラニン生成経路をどの段階で制御しているのかを特定することを目指しました。
このメカニズム解明はとても大切です。科学的根拠が明確になることで、製品設計や作用予測の精度が高まり、信頼性や差別化にもつながります。
ただ、ヒト試験だけでは詳細な仕組みを把握できないので、細胞レベルでの検討を始めました。
今回の研究で、ずばり何がわかったのでしょうか。
メラニンはチロシナーゼという酵素によって作られ、そのチロシナーゼはMITFと呼ばれる制御因子によって作られるのですが、緑色LEDはこのMITFの量を”遺伝子レベル”で抑制することができ、メラニンの産生量を減らすことに繋がることがわかりました。
研究で最初に大変だったことは?
「細胞試験では光を当てる時間や回数、タイミング、細胞の健康状態など、ほんの少しの条件の違いで結果が大きく変わってしまいます。特に光は優しくて繊細な刺激なので、効果を安定して確認できるように、評価方法そのものをしっかり整えることが何より重要でした。
3か月、24回の試験を重ねてようやく安定的に確認できる手法を確立しました。結果が出ない時期は正直つらかったですが、この方法は世の中に報告がなかったので、最終的には試験方法そのものを特許出願するまでに至りました。」


次のステップは?
「安定した試験系を確立してからは、メカニズム解明に進みました。
いくつか仮説を立てましたが、どうやら遺伝子レベルでの検討が必要だと分かってきたんです。遺伝子は体の設計図のようなもの。人には約2万個の遺伝子があると言われていて、それぞれが「細胞に何をさせるか」という指示書のような役割を持っています。この指示書=遺伝子は、細胞の中で日々オン・オフのスイッチを切り替えながら働いていて、2万個ものスイッチが緻密に制御されることで、細胞が正しく働き、私たちの体も元気に動いています。その中には当然、メラニンの産生に関わる指示(遺伝子)も含まれています。つまり今後は、そうした「メラニンに関係する遺伝子のスイッチが、光によってどう変化するのか?」という視点から、研究を進めていこうという方向性が定まった、というわけです。」
遺伝子実験にもご苦労があったとか。
「はい。最初は研究所に専用の機器がなく、とある施設に毎回備品を運んで実験していました。備品の中には精密なものもあったので壊さないようにプチプチで包み、試薬は常温だと失活してしまうのでドライアイスと共に発泡スチロールに入れて…毎回カバンがパンパンでした(笑)。
実験も一筋縄ではいきません。どの遺伝子をいつ見るかを間違えると、何も変化がなかったように見えてしまう。遺伝子実験は泥臭くて地道な作業の積み重ねです。
複数回の検討の末、505nmによって抑制される遺伝子を見つけることができました。見つかったときは本当にうれしかったですね。」

皮膚モデルでの検証についても教えてください。
「細胞試験だけでは現実の肌と違うので、皮膚モデルを使いました。これは人の皮膚に近い構造を持つ特殊な試験体です。表皮細胞やメラニン産生細胞など複数の細胞が層状に配置されており、実際の皮膚と同じように、細胞同士の相互作用や光の浸透なども再現できるため、より現実に近い評価が可能になります。1つひとつが高価な試験体なので、緊張感がありました。
この試験では11日間、毎日決まった時間に光を照射しました。休日も研究所に来て、静かな部屋で505nmの光を当て続ける日々…。地味で長い作業ですが、そのおかげで皮膚組織内でもメラニンが減少していることを直接確認できました。」
この研究を振り返ってみて、いかがですか。
「2024年2月から2025年5月の論文掲載まで、合計70回ほど試験しました。
仮説を立て、実験して、うまくいかず、また工夫して…その繰り返しです。
結果だけ見れば地味ですが、その積み重ねが高い再現性と信頼性をもったエビデンスになる。私はそれが、ヤーマンの未来を切り開く技術力の土台になると信じています。」
<論文はこちら>
Inhibitory Effect of 505-nm Green Light-Emitting Diode on Melanin Synthesis in Cellular Experiments and a Human Intervention Study(細胞試験およびヒト介入試験における505nm 緑LEDによるメラニン合成阻害効果)「Acta Dermato-Venereologica」(2025 vol.105)
https://medicaljournalssweden.se/actadv/article/view/43441

