INTERVIEWINTERVIEW

専門家インタビュー vol.1

表情って何だろう?表情って何だろう?

笑う、驚く、泣く、怒る…。私たちは日々の生活の中で、さまざまな表情をつくっています。それは、一人でいるときも、複数の人がいるところでも。

今回は、無意識でもつくっている表情には、どんな意味や意図があるのかを、理化学研究所のロボティクスプロジェクト心理プロセス研究チームリーダーであり、実験心理学・認知神経科学を専門とする佐藤弥先生に伺いました。

佐藤 弥 写真佐藤 弥 写真

PROFILE

佐藤 弥Sato Wataru

理化学研究所のロボティクスプロジェクト心理プロセス研究チームリーダー、京都大学フィールド科学教育研究センター特任准教授。専門は実験心理学・認知神経科学。日本心理学会・日本神経科学会所属。
心理実験、機能的脳画像、脳磁図、深部脳波といった多様な手法を用いて、感情および社会的コミュニケーションの心理・神経メカニズムを20年にわたって研究。

主な著書

Sato, W., Krumhuber, E. G., Jellema, T., & Williams, J. H. G. (eds.) (2020) 『Dynamic emotional communication』(Frontiers Media社)

主な論文

Sato, W., Minemoto, K., Ikegami, A., Nakauma, M., Funami, T., & Fushiki, T. (2020) Facial EMG correlates of subjective hedonic responses during food consumption. Nutrients, 12, 1174: 1-13.Sato, W., Kochiyama, T., Uono, S., Sawada, R., Kubota, Y., Yoshimura, S., & Toichi, M. (2019) Resting-state neural activity and connectivity associated with subjective happiness. Scientific Reports, 9, 12098: 1-10.Sato, W., Kochiyama, T., Uono, S., Sawada, R., Kubota, Y., Yoshimura, S., & Toichi, M. (2019) Widespread and lateralized social brain activity for processing dynamic facial expressions. Human Brain Mapping, 40, 3753-3768.Sato, W., Hyniewska, S., Minemoto, K., & Yoshikawa, S. (2019) Facial expressions of basic emotions in Japanese laypeople. Frontiers in Psychology, 10, 259: 1-11.」

顔に表情が出るのはなぜ?顔に表情が出るのはなぜ?

私たち人間は、いろいろな表情をしますが、表情は人間特有のものなのでしょうか?

人間は特に豊かな表情を出しますが、哺乳類にはある程度、表情筋の動きというものはあります。その中でも霊長類は、人間に近いほど豊かな表情を出していますね。

私たち人間が一番表情豊かなわけですね。その表情というのは、一体、何なのでしょう?

これは難しいのですけれど、基本的には、感情を外に対して信号として表す身体動作なんだろうと言われています。相手に伝える信号になっている、ということですね。

ただ、社会生活を営まない動物でも表情は出てきますので、進化的に古い時代はまず個人の中で役立つ機能があったのだろうと。例えば驚くと目を見開きますが、これは目を見開くことによって視界が広くなり、周囲の環境を効率的に入手できたのだろうとされています。

顔にはさまざまなセンサーがありますから、そのセンサーを調節するために表情を出すようになり、社会生活を営み始めてからは、集団で生き抜くために表情によって感情を伝えていったのだろうと考えられています。

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相手に感情を伝えるための表情ということですが、具体的に例えば笑顔は、
どういうものを笑顔として認識するのでしょう?

感情と表情の関係というのは、そもそもは表情を作っている人にしかわからないものなんですね。しかし1970年代にエクマンという有名な研究者が、人類普遍的に、こんな感情のときはこんな表情を出すよ、という理論を提案したことによって特定の感情のときには特定の表情が出ると定義づけられました。

例えば怒りの感情の場合は、眉を寄せ下がり、口角は歯を食いしばったりキュッと口を結ぶ、笑顔の場合は大頬骨筋によって口角が広げ上がり、眼輪筋によって目が細くなって目尻にしわが寄る、と定義されているわけです。

人類普遍というと…。

国境を越えて、日本でもパプアニューギニアでも同様の表情が見られるということですね。

そうした感情を伝える表情ですが、感情によって伝わるスピードに差はあるのでしょうか。

喜びや怒りといった快・不快の感情による伝達速度は、現在のところあまり差はないだろうとされています。ただ、快・不快の感情が、無表情と比べると脳に早く検出されるということはわかっています。そのスピードは、わずか約0.1秒。

パッと一瞬で伝わるわけですね。

はい、まさに一瞬で伝わります。

笑顔のとき、怖がっている表情のとき、心とカラダはどうなっている?笑顔のとき、怖がっている表情のとき、心とカラダはどうなっている?

感情から生まれる表情。では、喜怒哀楽の感情が生まれたときに、心身にはどんな反応が起こるのでしょうか?

感情が生まれたときは、表情はもちろん、身体にいろいろな反応が起こります。例えば恐怖を感じると目を見開いき、鼻孔が広がりますが、これは身体が視野を広げて周囲を見やすくし、呼吸量を増やしてすぐに逃げられるようにしているといわれています。

また、快・不快の“快”な感情を感じると免疫系の良い活動が起こるというデータもあります。よく笑うと身体に良いといわれますが、実際に免疫は上がり、ストレスは下がるんですね。

ここで興味深いのは、一般的には感情が生まれて表情などの反応が起こるのですが、逆に表情を動かすだけでも自律神経や免疫系といった身体の反応が起こる、という例も報告されています。

ですので、口角を上げて目を細める、いわゆる笑うという表情をつくることで、身体が良い反応を起こすことはあり得るといえるでしょう。

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先生の研究を拝見しますと、Aという人が笑うと、その表情を見たBという人も笑顔になり、楽しい気持ちが共有されるという実験結果もあるようですが。

はい、そうですね。表情を読み取って感情を共有する仕組みがありそうです。先ほども申し上げたように表情筋を動かすだけでも感情や自律神経、免疫系など身体のシステムが回り出します。

また、感情とは別に、人の脳の運動野にはミラーニューロンというものがありまして、簡単にいうと相手の真似をしちゃう機能があるんですね。

こうした活動がもとになっていると思われるのですが、相手が笑顔になると自分も真似て笑顔になり、その表情筋の動きから心身のシステムが回り出し、感情も喚起されて相手の“快”の感情を共有する、という仕組みがありそうですね。

その“快”の感情を生む笑顔ですが、つくり笑いでも同じ効果はあるのでしょうか?

つくり笑いでも一定の効果はありそうですね。表情を動かすだけで感情は変わるだろうかと調べた研究者がいまして、それによると表情によって感情は変わるんですね。ということは、つくり笑いでも表情筋を動かせば感情も変わることになります。ただ、まだ論争がありますが。

それはつくり笑いだけでなく、怒った表情をつくったときもですか?

同じですね、笑った表情をつくれば“快”の感情が、怒った表情をつくれば“不快”の感情が生まれると考えられます。

ちなみに、うつ病の人は眉間にしわを寄せることが多いことから、眉の動きをボトックスによって止めるという実験をした人がいるのですが、実際にうつの症状が軽くなったという結果が出ています。

それはすごい。そんなに感情と表情ってつながっているんですね。

そうなんですよ。心身はたくさんの部品がシステムとして動いているので、その一部を変化させることで全体が変わっていくというのはあるようですね。

表情で好感度は上げられる?表情で好感度は上げられる?

ここまで表情にまつわる興味深いお話を伺ってきましたが、それでは多くの人に好感がもたれる表情というのはあるのでしょうか。

心理学の分野では、魅力、アトラクティブネスの研究が近いと思うんですが、表情とは別に、何が人の魅力に関係するかというと対称性、対称的な顔が美しいといわれています。

それと平均顔といいまして、バランスのいい顔が美しいともいわれます。ですが、表情の影響を調べた研究では、そうした持って生まれた顔の形状以上に、といいますか、それを補ってあまりある影響を笑顔が持つ、という研究結果が出ています。つまり、笑顔を出すだけで顔の造作を乗り越えて打ち消すほどの魅力を上げる効果があるんですね。

ということは、笑顔になることが魅力を上げる近道ということですね。

そう言えると思います。

それは素敵なお話ですね。ぜひ笑顔を心がけていきたいと思います。
本日はありがとうございました。

最後に最後に

最前線の研究の現場からお届けした今回のリポートはいかがでしたでしょうか。笑顔になることで自分の気持ちまで明るく楽しく変えることができるというお話などは、今からでも使えそうですね。心に留めて、気持ちの切り替えなどにも上手に活かしてみてください。

CHECK

大きな笑顔は表情筋がカギ。

顔の筋肉は表情筋と咀嚼筋の2種類に大別され、さまざまな働きをしています。中でも表情筋は佐藤先生がインタビューで触れられている通り、表情をつかさどる非常に重要な筋肉。

例えば「笑顔」は、大小の頬骨筋が動いて口角を上げ、目の周りの眼輪筋が収縮して目を細めることで形づくられます。つまり、よく笑う人はこうした表情筋が活発に働いているといえるわけですが、巣ごもり生活やマスクの常用などによって表情をあまり動かさない習慣が続くと、表情筋が衰え、笑顔がつくりにくくなることも考えられます。

マスクを外す日に備えるためにも、笑顔の表情筋はしっかり鍛えていきたいものです。