表情筋研究所

YA-MAN ヤーマン

research研究

2024.02.29

若返るための細胞が老化するパラドックス

こんにちは。春が近づいてくると、なにかを育てたくなります。研究所でも最近なにかが育っていると聞きつけ、今日も“美の深層”で何が生まれているのか、『表情筋研究所』ラボへ行ってまいりました。

コラーゲンのもと、線維芽細胞とご対面

早速ですが、このビニールに寄った皺のようなものは・・?

「こちらは、「線維芽細胞(せんいがさいぼう)」をマイクロスコープで400倍に拡大して見たものです。」

聞いたことはあるような気がするのですが、「線維芽細胞」とはなんでしょうか?

「肌は大きく3層から構成されていて、上から「表皮層」「真皮層」「皮下組織」があります。そのうち、真皮層に存在する細胞のひとつです。コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸を産生し、肌の瑞々しさや張りを保つ細胞です。」

コラーゲンというと飛びつきたくなりますが、それを生み出す細胞、初めて見ました。美肌を目指す誰もが求めるものというわけですね。

「はい、それを育てています。」

これさえ増やしていくことができれば、肌を若々しく保つことができるんですよね。自分の肌でも育てたいので育成方法を教えてください!

「育てるというか、研究所では実験に使うために状態を管理している、というほうが正しいかもしれません。そして、細胞は一概に“育つ”とは言えないのです。こちらの画像をご覧ください。線維芽細胞の中にも若い細胞と年老いた細胞がいて、線維芽細胞も老化していくのです。若い細胞は、細長い形をしていますが、老化した細胞は、右のように潰れて肥大化したような形になります。」

美肌のために老化する細胞

え、老化ですか?線維芽細胞が増えることは若々しい肌を作るのによいことと聞きましたが、“老化した細胞”が増えるのは逆によくないことのように聞こえます。

「“老化”という言葉の印象がよくないのかもしれませんね。そもそも細胞というのは、分裂を繰り返して増えていくのですが、分裂を繰り返し数が増えると、今度は細胞自体が老化していくという宿命があります。」

なんだか矛盾しているように聞こえてしまいますが。。。細胞の“老化”というのは私たちがイメージするものとは意味が違うということでしょうか。

「このグラフのように、細胞は分裂を繰り返し徐々に老化していくにつれて、増殖=細胞分裂に必要な時間が長くなります。同時にコラーゲンを分泌するパワーも減っていくのです。最終的には分裂増殖しなくなり、役目を終える細胞もいる一方で、「幹細胞」と呼ばれる細胞からは日々新しい線維芽細胞が生まれてきます。これが肌の生まれ変わりにつながります。」

細胞が老化するほど、肌は若返る、と。

「1つの細胞だけに着目すれば、ある意味“老化が加速する”ということになるのでネガティブなイメージになるかとは思いますが、線維芽細胞が増えれば、もちろん産生されるコラーゲン量も増えるので、肌たるみなどの老化対策には効果的だと言えます。“細胞の老化”と“肌の加齢”は別の話で、線維芽細胞の増殖は「老化」と捉えるよりも、「ターンオーバー」と考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。」

細胞もたまにはピンチに!?

なるほど!ターンオーバーはイメージしやすいです。ところで、そもそもなぜ線維芽細胞を育てているのですか?

「線維芽細胞の働きは肌の弾力に大きく関与し、多くの人の肌悩みにアプローチできるため、研究所では電気や光といったエネルギーが線維芽細胞に及ぼす影響を検証する試験を実施しています。そのために日々、細胞を管理し増殖させ、実験に用いています。」

「また、肌のために良いこと、という点では、実験では線維芽細胞の形や数だけでなく、線維芽細胞が分泌しているコラーゲンなどのタンパク質の量や質の変化を評価していますので、環境全体のバランスが大事です。その時々の若い細胞と老化細胞の比率、バランスを調整することにもポイントがあります。細胞を育てる作業はルーティーンではありますが、毎回全く同じ作業というわけではなく、その時々の細胞の状態にあわせて、臨機応変に対応することが必要になってきます。細胞も生き物なので、雑に扱えば体調が悪くなり、試験に使用できない品質になってしまう可能性があります。なので、毎日顕微鏡で観察し、増殖性や形態変化を見逃さないようにしています。」

失敗することもあるのですか?

「細胞を育てること自体は、これまでの経験や知見があるので問題がおきたことはありませんが、実験は試行錯誤の連続です。実験では、どれくらいの強さ、時間、頻度でエネルギーを与えるのが最適なのかを探っていくのですが、思ったような効果が出ないこともあれば、エネルギーを高くしすぎて発生する熱で細胞が弱ってしまったこともありました。ただ「思ったような効果が出ない」というのも、次の新しい発見につながるものです。例えば、コラーゲン産生量を評価する試験で効果が確認できなくても、実は別の因子が上昇していた!ということもありました。」

「何のエネルギーをどのように与えて、その結果どのような効果が細胞に出るのか。探索する方向性は無限大です。一つ一つ試験していき、新しい技術に繋げていければと思っています。」

研究室ではさまざまな実験設備がありますが、肌という生き物を扱っているだけに、実験のための準備にも地道な作業があるという、研究員のみなさまの繊細なご苦労を垣間見ました。そしてエネルギーと細胞の関係は未知の領域。実験はまだまだ続きそうです。

肌の深層、400倍のミクロの世界、いかがだったでしょうか。

では、また次回をお楽しみに!

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